自殺者を35%減らした【生きテク】、障がい者起業を支援する【ユニバーサルベンチャー】など、未常識を次々と打ち出すディープ・ブランディング株式会社 代表取締役オキタリュウイチさん。
そのほかにも、廃業を決めた米屋の売上を70倍に伸ばすなど、さまざまな取り組みを手掛けてきました。
オキタさんの根底に流れる思いとはなんなのでしょうか?
オキタリュウイチさん
「僕は全ての人が【線香花火】のようにパチパチと弾けているのが当然だと思っています。
でも、線香花火に火をつけた瞬間、ぽとっと落ちたら“おや…?”となりますよね。
“自殺者3万2,000人”にも、“障がい者雇用”にも違和感があり、それを埋めるために活動しています。」
人々の心を打ち、大きなムーブメントを起こしてきた活動と合わせて、今後の展望について詳しくお聞きしました。
▼社会構造へのアプローチ
・社会システムとしてのセーフティネットを作る
オキタリュウイチさん:僕は小学生の頃に「お坊さん」になりたかったのすが、一度その夢は断たれてしまいました。ところが調べていくと、かつての僧侶は役割として困窮している人々を支援する活動をしていたことが分かったんです。
そこで、1999年に「キレる17歳」という言葉が流行したのですが、彼らを善行に導くような「ヘブンズパスポート」という活動からを始めました。「良いことを100個すると夢がかなう」というコンセプトの社会活動です。
その後、多くの個人や事業の課題を解決してきましたが、目の前の課題を1つずつ救っても本質的な解決には至らない。社会の構造的な部分にアプローチする必要があると考えました。
その1つが【生きテク】というサイト。「生きていく方法をまとめたアーカイブ」です。「同じ課題に直面している人と、解決して乗り越えた人をマッチング」させる仕組みとして、2008年にこのサイトをリリースしました。トップページには「生きテクを見て自殺を思いとどまった人」を表示しているのですが、2022年現在2万7,000人以上の方が自殺を踏みとどまっています。
・ユニバーサルベンチャー:「障がい者起業」
今後大企業の時代も終焉を迎えるので、障がい者にスポットを当てて個人で起業する構造を作ろうと日本財団と連携して「ユニバーサルベンチャー」を実施しました。
というのも、僕には「障がい者雇用」という言葉に引っ掛かりがありました。「何かが欠落しているけど助けてやっている」というニュアンスを感じたのです。
本来のビジネスは【足りないもの同士の交換】で成り立っています。たとえば貝を持っている人と野菜を持っている人が、お互いに交換するのは対等の原理です。
「ユニバーサルベンチャー」で大賞を受賞したのは、普段車椅子を利用している方のビジネスモデルです。車椅子を利用している方は、普段家に引きこもりがちになるケースが多いんですよ。そうなると、必然的にインターネットに詳しくなる傾向があります。彼らが培った専門知識は「個性」であり「武器」ですよね。
専門知識を持った彼らを画面の向こうで待っているのは、メールの設定ができない主婦やパソコンに慣れていない人。月額制でサービスに登録しておけば、365日24時間必ずインターネットのサポートを受けられるというビジネスです。
そうすると、サポートを受けた側としては「障がい者で可哀そうだから買ってやる」みたいなこともなく、困っているところを助けてくれてありがとうという自然な感情が生まれますよね。
▼未来に向けた「神社再生機構」
現在力を入れているのは「日本神社再生機構」です。今後20年で、日本の神社の40%がなくなるといわれています。
神社は「この土地がどういう土地だったのか」というツールそのもの。たとえば、なぜこの土地で養蚕が発達して、その地域の人々はどういうものを食べていたのかなど。そういった地域ごとの特色が刻まれています。
日本は1,000年以上続くという点でも、世界的に見ても稀な国です。非常に多くの文化が残っている面白い国でもあります。また、歴史を紐解いていくと、神社は非常に重要な意味のある場所に建立されていることが分かってきました。神社が失われてしまうと、そういった日本人のルーツがたどれなくなってしまうことに危機感を抱いています。
ただ、「なぜ失われることが問題なのか」は、まだ世の中には伝わっていません。宗教の関係で行政も手を出しづらいので、自分で「神社再生」をやるしかないと着手しています。
▼大病からの生還と後遺症を経て
2019年に僕は脳出血で半身不随になりました。当初は「治そう」という考え方だったのですが、それは「2019年の自分に戻りたい」と過去にベクトルが向いていることになります。病気を治そうとしている以上は治らないと気づいて、それからは“未来にワープ”することにしました。
・『夜と霧』アウシュビッツ収容所の世界が教えてくれた“ビジョン”
今の僕は「治そう」とは考えていません。というのも、治療をしていたときに、『夜と霧』(著:ヴィクトール・E・フランクル)を読んで捉え方が大きく変わったからです。アウシュビッツの強制収容所から生還した精神科医の著書なのですが、雷に打たれたような衝撃が走りました。
アウシュビッツに収容されていた人々の中で「ここから出たい」「助けて」と思っていた人はことごとく亡くなってしまう。だけど、「私には夢がある」「ここから出て、こんなことをしたい」と“未来のビジョン”を思い描いていた人は生還できているんですよ。
そのときに、当時の治療は過去の自分に向かっているということに気づき、“治癒された後の世界”を思い描くようにしました。
・“先代オキタさん”の遺品から未来へワープ
治癒された後のビジョンを描くようにしたら、身の回りが「先代オキタさん」の遺品に囲まれているように感じました。「彼はこういうものが好きだったんだろうけど、もういらないな…」と。そこから引っ越しもしましたし、2021年11月には黒かった髪を白く染めました。
それから、2022年10月公演に向けた【能】の稽古にも取り組みました。僕が編集長を務める『Deep Branding Japan』で能楽堂を取材した際に「舞ってみないか」と誘われたのがきっかけです。
最初はできなかったのですが、脳の中ではリハビリを超えて、能楽師になっている自分がいたんですよ。“今”はできていないけど、“未来”ではできている。今までの方法論だとどうしても行き詰ってしまうのですが、その場合は“未来にワープ”すればいいんですよ。これはなかなか伝わらないので、伝えるためには自分でやって見せるしかないですね。
▼起業家・経営者に向けて
【困難】にぶつかったとき、実践レベルなどの低い視点で物事を見ていると問題は解決しないものです。そこで、もう一段高い視点を意識すると、今までの狭い視点で見てなかったことが明確になり解決していきます。
多くの人は、低い視点のまま考えてしまうので、何が問題なのかということすら気づいていないこともあるでしょう。問題に直面しているときは、今までのやり方で解決しないという教えでもあるのです。
それを伝えてくれるのは社会、世間、人々、または宇宙という高い視座かもしれません。でも、「時が訪れるから大丈夫」です。高い視座になれば自ずと解決するんですよ。そこで得た経験は万人の心を打つものになっているはずです。
最後に、僕のやりたいことは、まだまだたくさんあるのですが、1人では限界があります。「オキタリュウイチと社会を変えたい」という人も大募集しています。
▼prof
ディープ・ブランディング株式会社 代表
Deep Branding Japan編集長
元真言宗・僧侶
オキタリュウイチさん
【略歴】
1976年4月16日徳島県生まれ。早稲田大学人間科学科中退。
日本古来の成功法則をベースに、行動経済学に類した独自の経済心理学を融合し、
日本で初めてマーケティングに応用。「ディープブランディング」と名づける。
過去にプロデュースしたプロジェクトの数々は、各種メディアで特集されている。
主著『5秒で語ると夢は叶う』サンマーク出版、『生きテク』PHP研究所 など
※取材時の内容です。
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